デッサン[dessin]という言葉は、フランス語です。英語だとドローイング[Drawing]、線を描くという意味になります。

さて、デッサンという言葉を理解することは、その源流に遡ることになります。
大変お世話になった東京芸大の佐藤一郎教授(2013年退官)の受け売りですが、先生は「絵画技法入門」で、そのことに触れていらっしゃいます。この本はマックス・デルナー著「絵画技法体系」を噛み砕いた入門書です。

自然科学や哲学と関係があった
先生は著書の中で「見ること」は、ギリシャ-アリストテレスの哲学と関連があり、その哲学においては「見ること」を通して「真理」を導き出す(導き出していこうとする)ものであったと、記述されています。ヨーロッパ美学の源流には、哲学や「比率(プロポーション)」「遠近法」などの科学がある、と明示されています。

再現的模倣
「デッサン」の元になったのは、「ミメーシス(再現的模倣)」です。模倣というのは、理解し、取り込むということです。
デッサンは、モチーフを描写していく過程で、モチーフがどういう状態なのか、見て、判断し、どのように描き進めるか推測し、描いていきます。「見る」→「描く」行為の間に「思考」がある、その「思考」は自然科学や哲学のものでもあるわけですから、模倣は単なる模倣ではなく、「世界」を広げていこう、より深く理解していこうという行為になります。「創造的模倣」と言い換えてもいいかも知れません。

源流から紐解くと、ヨーロッパ美術の歴史自体が「見る-思考する」歴史でもあり、「デッサン」は「技術」以前に、「見る-思考する」手段だったと捉えることも出来ます。「デッサン」を、単なる「描く技術」と理解することは誤解であり、大切なものが抜け落ちてしまいかねません。