やはり線の魅力は、生き生きとした線です。
ドーミエという作家は、グニャグニャとした有機的な線を引く人もいる。
速水御舟のように、鉄線描と言われるような厳格な線を引く人もいる。
作家それぞれに、魅力的な線を引いています。これが良い線だと限定することは、出来そうにありません。ただ、線に「何か」が乗っている。線にどのような思いを持っているか?どのような過程で線を発見したか?線というシンプルな行為にも、作家の個性や姿勢が表れています。
子どもの伸び伸びした線は魅力的です。上手く行っても行かなくてもいい、物怖じもしない、後悔もしない、線を引いたら引いただけ、自分そのままが表れています。「今、ここで」感じたことを線に表すストレートさは、ちょっと真似できません。
良い線の例を上げました。次は、良い線ではない例を上げます。
子どもに比べて、大人は中々そう行かない。上手く描かなければならないというプレッシャーが、描き手にはどうしてもあります。特に初心者は、縮こまってしまう人がいます。初心者でなくても、失敗を恐れる限り、そうなります。そういった時の線は、弱く、びりびりした線になっています。
逆に、描くことに慣れた人で、「自分流」の線を簡単に当て嵌めてしまう人もいます。モチーフを描いても、モチーフから汲み取ろうとしていない。絵の世界を全部、自分色に染めて行こうとするのです。個性的に見えることもありますが、強引に当てはめた線は、硬いものになりがちです。
では、良い線を引くためには、どうすればいいか?
子どものように線を引きたくても、大人はもう子供には戻れません。自然に良い線を引いていた時代、どんな気持ちを持っていたか?思い出すのが難しいなら、身近な子どもが絵を描いているのを見たり、気持ちを聞いたりするのも手です。でも、そのような心情になって線を引けるかというと、物怖じもしない、後悔もしないのは難しいことです。せめて、上手く行っても行かなくても良いという「開き直り」は、持つべきでしょうか。一番見習いたいことは、楽しそうに描いていることです。
また、線を研究することも必要です。色々なモチーフを描くことで、モチーフの持つ線を学ぶことは出来ます。そこでは、硬い線、柔らかい線など、様々な線のバリエーションを身に付けることが出来るでしょう。リアリティーのある線の幅が増えるにつれ、自信を持った強い線を引くことも出来るようになると思います。強い線が引けたら、弱い線も引けるようになります。線も緩急、強かったり弱かったりすることが魅力につながりますが、次は線に強弱、緩急をつけることにトライしてみて下さい。線に、自然さとしなやかさが出るようになると思います。
線の練習を続けて、計算することが減り、素直に感覚を載せていくことが出来るようになると、子どもの頃の楽しさが蘇るかもしれません。前段の巨匠たちは、おそらくこのような苦労の末、自分の線を確立していったのだと思います。デフォルメ(誇張表現)だと言って、割と簡単に自分の線を見つけたようにおっしゃる人もいますが、絵が振幅のある世界観を持つためには、やはり作家は試行錯誤をしたと思います。
クロッキーは、線の研究にはお勧めの教材です。短い時間で、線を選び、気持ちを載せていくので、簡単とは言えません。形を取る力、集中力、自己表出力が問われます。デッサン同様、ある程度長い目で見て、練習する必要はあると思います。経験から「上手く描いてやろう。」と思うと、逆に焦って上手く行かなくなります。「伸び伸びと、気楽に」と思って描くと、何十枚かの内、何枚か上手く描けたと記憶しています。
生き生きした線を引くためには、描き手の方も、生き生きしていることが問われます。