石膏像は、石膏で写した「石彫りの彫刻」のレプリカ(模造品)です。まず「石彫りの彫刻」の周りに石膏を付け、ばらばらに取り外して、外型を取ります。その外型を組み立て、内側に石膏を回し懸け、石膏が固まった後に外型を外すと、そっくりの立体感を持つ、「石彫りの彫刻」のレプリカが出来上がります。石膏像には、ほっぺたや頭などに筋がついていますが、外型は組み立て式なので、型と型の合わせ目に「バリ」が残るためです。この「バリ」は型が正確なものほどしっかり出る、と聞いています。コピーを繰り返すうちに外型が摩耗し、「バリ」も鋭さを失うためです。
「石彫りの彫刻」は、ギリシャ・ローマ期の神像で、美術館に収められています。石膏像には、ビーナス、アテネ、マルスなど、耳なじみの多い神様の名前が多いのは、そのためです。ギリシャ・ローマ期は、肉感的で人間味豊かな神像が多く作られました。やはりヨーロッパ・アカデミズムは、宗教画、王侯貴族のポートレイトなど、伝統的に人体を主としたモチーフにしてきたため、ルネサンス以降は特に、理想的な人体モデルであるギリシャ・ローマ期の神像が、デッサンに打ってつけの題材になったのです。
日本には、明治期、文明開化の掛け声のもと、「西洋画」と共にまるっと輸入されました。「アート」の翻訳のために、「美術」という言葉も生まれました。それ以降、洋画科の入学試験には、石膏デッサンは打ってつけの題材になっていきました。近年まで受験生は、何の疑いも無く、石膏デッサンをひーひー言いながら描かされていたわけです。近現代アートが主流になり、モチーフやコンセプトが多様化しても、入試制度はそのまま引き継がれました。受験生には、何も見なくても石膏デッサンがそっくりに描ける「石膏デッサンの神様」も出現し、日本独自のガラパゴス的進化が生まれることになりました。近年、現代アートの教授がその流れに異を唱え、また費用や労力節減のため、石膏デッサンが入試に出題されることは、下火になってきています。しかし時々思い出したように、出題されることもあります。
私の考えとしては、石膏デッサンは美術史を知るために必要なモチーフだと思っています。また石膏デッサンは、適当な描き方が通用しない、デッサン力が問われるモチーフですので、デッサン力を計る良い水準になると考えています。だから当教室でデッサンしている人は、もちろん独学でも美大の経験が無くても構わないのですが、プロを名乗る或いは名乗りたい人は、せめて石膏デッサンを描ける技量を持つべきだとも思っています。