全体を見て、判断しましょう。全体的に見比べて、描きましょう。
これは、初心者からある程度描ける人まで、ほとんど全員にアドバイスすることです。つまり、全体を見て描くことは、デッサンにとってかなり重要なことで、しかもなかなか難しい課題なのです。

なぜ、全体を見て描くことが、必要なのか?
それは、線や塗りが的確かどうか、周りと比較して判断することが必要だからです。頭部に対して、目、鼻、口の位置を測らなければ、顔が正確に描けません。体に対して、頭部の大きさを計らなければ、頭身が描けません。紙の大きさに対して、描くものの大きさを計らなければ、対象を上手く納められなかったりスケール感が出せません。また、構図や余白を考えることが出来ません。という具合に、描く部分と周りの部分の関係を常に意識し、描いた部分が適正か?これから描こうとしているものをどのように配置するか?作者は線や塗りをコントロールしていく必要があるからです。

なぜ、全体を見ていくことが難しいのか?
誰しも、描いている部分に集中すると、それ以外は見えなくなる傾向があります。また自分が描きたいところは頑張りますが、それ以外は気が抜ける(よくある例として、影)ことも多いようです。「視野が狭い。」という例えがありますが、どうやら人間はもともと「視野が狭い。」のではないか?と思える事例もあります。例えば、目には広く映像が映っていても、気に留めている範囲は意外に狭く、後で質問されても覚えていない、ということがよく有ります。脳が、関心を払っている「部分」しか認識していない、ということです。これは基本的に、初心者だろうがベテランだろうが同じ、意識や認識のメカニズムです。

では、どうすれば全体を意識できるか?ベテランは、なぜ出来るのか?
常に目を配ること、バランスを意識することを、頭に叩き込んできたからです。最初は、自分が描いている「部分」と「全体」が常に関係していることに気付きます。「形」でも「明暗」でも「立体感」でも、周りとすべて繋がっているということがわかります。そして、部分的に描いてもどうしても上手く行かない、先に進めないことに気付きます。ここまでは、ある程度枚数を描かないと分かりません。しかし、上手く行ったり行かなかったり、浮き沈みがある期間がある程度続きます。それは無意識的に描いているからだ!だから、どこかが抜けてしまうのだ!と、痛感するようになります。そして意識的に「自分に呼びかける」ようになります。いつも見比べろ!常に全体的判断を心掛けろ!と、心の声を発するようになるのです。意識操作とも、訓練とも言えるかも知れません。これは技術ではなく、意識や認識ですから、気付きを繰り返し、時間を掛けて出来るようになります。

物理的には、どのような方法があるか?
1、画面から離れる
3~10歩下がって、画面を見る。モチーフの横に画面を置いて、比べてみる。鏡で、画面を写してみる。デッサンをひっくり返して見る。距離を取ったり、視点をずらしたりして、客観視を促します。

2、目を動かす
初心者ほど、目が動いていません。15秒ほど自分の描いているところを見て、0.5秒モチーフを見るという感じです。モチーフを見る時間が短い、観察できていないと判断出来ます。私が実演している時、0.5秒に一回平均で目が動いていたそうです。見比べる回数も、ベテランになるほど多くなります。モチーフを注視するように、描いている部分以外を目配りするように、意識する習慣を身に付けましょう。

総じて、見方や意識の仕方、描き方や技術以外の課題です。これらの練習は、実際目が疲れますので、目薬もご用意いただいた方が良いと思います。