目の前に置かれたモチーフを、よく見て写し取っていく、そのようなデッサンが一般的です。それで、デッサンに創造性が無いとか、表現行為がないという誤解があります。
創造的模倣
ミメーシス(創造的模倣)というのがデッサンの起源であり、ギリシャ哲学に発する考えであることは、佐藤一郎先生の著作でご確認下さい。デッサンの起源「ミメーシス」がなぜ「創造的模倣」と訳されたか理由が物語るように、創造には模倣が必要です。創造には、前提が必要です。0から新しいものが出来ません。
デッサンの「再現」は、描いて学ぶという側面もあると思います。自然のことを知らないと、自然は描けない。最も、いくら学習しても追い付けない膨大さ複雑さが、学習の中身かも知れません。
創造のために、学習して、吸収して、再構築していく、「模倣」はその過程の一部であり、必要なものだということです。模倣の部分だけを見て、創造性が無いと思うことは一面的なのです。
以下は、デッサンに含まれる表現行為です。
●鉛筆のタッチで質感を出す表現
紙と鉛筆という限られた素材で、タッチを工夫し、目の前にあるモチーフの、ザラザラした質感、ツルツルした質感をどのように表すか?それぞれの違いを表せるか?試行錯誤します。絵具でも、水加減や塗る順番、筆は傾け方や引きかたで、無限の表情を作ることが出来ます。鋭い触覚を通して、素材感を磨く。また、線を重なりで、面の傾きや空間を表現することもあります。写真にはない、絵画独特の表現です。
3次元のものを2次元に置き換える表現
まず遠近法ですが、ルネサンス初期、自然科学から生まれました。この表現が確立することで、祭壇画をまるで建築の一部として感じ、人々は神々の世界を地続きの世界と感じたことでしょう。次に空気遠近法、つまり背景色になじんで行く色で、遠くのものを表現する。次に、大きさの違いで遠近を表現する、色の暖色が前進する、寒色が後退する視覚心理を利用して、遠近感を生むなど、多種の表現があります。
この二つの表現は、マンガ・アニメイラストだけでなく、工芸、彫刻など立体分野にも一部取り入れられた、汎用性のある表現です。デッサンは、目の前のものを写すのではない、創意工夫を加えて表現することであることを御理解いただきたいと思います。