デッサンでは、鉛筆を使います。
デッサンには、鉛筆を寝せて塗る、独特の使い方があります。そのため鉛筆の削り方も、斜めに長く削って、芯を長く出すようにします。また、デッサンを描いて行く前に、鉛筆の使い方に慣れる練習をします。

しかし、それが上手く行かなくて挫折する人が、意外と多いのです。鉛筆が使いこなせない理由は、普段から使っていない、鉛筆は小学生以来使ったことが無いなど、鉛筆から遠ざかってしまったこと、手先が器用ではない、手が汚れるのが嫌など、様々なことが考えられます。

ここでは、鉛筆に慣れるための方法を考えてみました。

鉛筆とお友達になる方法

人によっては、上手く削れなかったり、線を引くことになかなか慣れなかったりと、この段階で既に辛く思う方もいらっしゃると思います。まずは、鉛筆とお友達になる方法を考えてみました。

〇筆箱には、鉛筆とカッターナイフは必ず入れる。
〇一日一回、描いたり、削ったりしましょう。
〇可愛い鉛筆ホルダーを付けて、親しみを感じる工夫をしましょう。

〇小さい紙から始めましょう。落書きから始めましょう。
〇少しずつ大きな紙に、描くようにしましょう。
〇簡単な形、丸や四角から描いていきましょう。
〇それから、運筆練習の課題を「一つづつ」取り入れていきましょう。

少しづつ慣れ、少しづつ取り入れる、それが合理的です。
普段走った経験が無いのに、いきなり42.195キロを目指すのは、どう考えても合理的ではありません。スポーツだと、このことは自然に納得出来ることだと思いますが、絵に関しては、いきなりでも出来そうだと思う方が多いように感じます。絵にも、認知や認識から運動神経も含まれていると思いますので、少しずつ進めることが合理的です。どうぞ、取り入れてみて下さい。

鉛筆は、素晴らしい道具であり素材

鉛筆という素材は、素晴らしいものです。
これほど世の中に行きわたっている道具は、なかなかありません。
そして、昔からデッサンで使われている道具です。
そして多くの画家が、鉛筆で素晴らしいデッサンを描いてきました。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、限りない世界を描き出しましたが、当時鉛筆は開発されていませんでした。鉛筆よりはるかに不便な画材を使っても、そのような表現が出来たということは、驚異に思います。鉛筆を、彼がもし手に入れることが出来たなら、使いやすさに狂喜したかも知れないと想像します。

鉛筆の特徴は、
〇線の濃淡、強弱を出すのが容易。

〇重ねて描くことが可能。(画材によっては出来ない。)
〇塗るのも簡単に出来る。
〇そして、タッチや塗り方で、様々な素材感を出すことが出来ます。(タッチは、線的画材を用いた絵画独特の表現方法で、注目に値します。)
〇安価。
〇一般的。

利便性があり、安価だから、ここまで広まったのだと思います。ただ、余りにも一般的すぎて、鉛筆の価値は当たり前のものとして、見過ごされる傾向があるかも知れません。デッサンでは、鉛筆の可能性を余すところなく活かしていきますので、改めて鉛筆の素晴らしさを感じていただけると思います。

 

なんで鉛筆に慣れるなんて、めんどくさいことをしないといけないの?
便利な、ペンタブレットで、液晶画面があるのに、今時、どうして鉛筆にこだわる必要があるの?

デジタル機器を使った描画は、多くの人が利便性を享受し、インターネット時代では当たり前になってきました。そのため最近は、鉛筆を使う経験を持たない画家も登場しています。ここでは、鉛筆=アナログとペンタブレットを対決させることで、鉛筆の持つ表現力の豊かさを、明らかにしていきたいと思います。

道具として手に入れやすい
それぞれ職人さんが、道具を使いこなして仕事をしています。植木屋さんだったらハサミ、カーレーサーだったら車、ケーキ屋さんだったらゴムベラ、Eスポーツだったらゲームコントローラーという具合です。
ペンタブレットも道具として使いこなせれば、素晴らしい作品を生み出す可能性を広げるでしょう。ただ、鉛筆は、何時でも、誰でも、どこでも、手に入りやすく、使いやすいという利点、公平性があります。車やペンタブレットは、そういう訳には行きません。

便利さと引き換えになる個人力
ペンタブレットは優れた道具です。また、絵の具、紙、鉛筆など一切の画材は、ソフトウェアがそれを肩代わりします。いくらでも重ねて描けるし、いくらでも消して直せる。拡大縮小、場所の移動、複製も自由自在。これがアナログだと、全部手作業で、直したり、描き加えたり、膨大な作業量が必要となります。

しかし、便利さだけでは、絵の完成度は上がりません。形の微妙なカーブや位置関係、線の強弱、構図の良し悪し、色の響き合いなどを判断できるからこそ、絵の完成度は上がります。では、そのための判断力は、どのようにして養われるでしょうか?それは、良いものと悪いものを比較していくことで、判断出来るようになります。他人の絵でも比較していくことは出来ますが、絵は自分が描くものですから、自分が上手く描けた時と上手く描けなかった時を、比較していくことになります。

失敗経験が必要
つまり、判断力を養うためには、失敗経験が必要なのですソフトウェアが、上手くやってくれるうちは失敗と感じることが少ないかも知れません。その代わり、絵を改良するために、何処をどれだけ直すと良いか?どこを強くどこを弱く描くか?比較して判断する経験は持てませんし、ソフトウェアが判断を肩代わりしてくれることはありません。感覚や判断力を養うには、ご本人の目や指や頭を使って、経験の中で判断の精度を少しづつ上げていくしかないのです。

その点、鉛筆で描いたものは、上手い下手が一目瞭然で、上手く行ったか?上手く行っていないか?の判断は明瞭です。つまり、ここは出来た、ここは出来なかった、こうしたくなかった、こうなって欲しいという事例が明確に跳ね返ってくるので、ブラッシュアップしやすい。反面教師のようですが、失敗が明確にならないデジタル機器より、鉛筆は教材として優れているのです。

素材感が優れている
最近の動向として、単にソフトウェアが使えるだけでなく、素材感にこだわり、タッチにこだわっていく、一段階こなれた絵画表現が、デジタルの世界でも求められてきているように思います。これは、これまでソフトウェアの技術が一般化し、より高度なものが求められてきたということです。最初は、絵具できれいなベタ面が塗れたら褒めてもらえた、しかしみんながそれが出来るようになったら褒めてもらえなくなった、ということと似ています。

素材感やタッチが、デジタルの世界でも求められているということですが、これはアナログでもデジタルでも変わらない、作者自身の素材感や触覚です。これらは個人的な感覚であり、作家性と言い換えることが出来ます。このようにデジタル・クリエイションの現場では、一層アーティスティックなものが求められているのだと思いました。

どのように素材感を鍛えていくのか、タッチを覚えていくのか?
明確な方法論はありませんが、様々な素材に触れ、いろいろな素材感を描き分ける練習をすることです。タッチの付け方は、素材や質感などによって変わります。モチーフに合わせて、どういうタッチを付ければ質感が上手く表現できるか?試行錯誤を繰り返していくことです。これは、デッサン入試でお馴染みの、モチーフの描き分けを習得する方法ですが、時間は掛かります。

濃い鉛筆はザラザラした調子が出やすく、薄い鉛筆はシャープさを感じさせる調子が出やすい、また擦り込むとしっとりとした調子になります。このように鉛筆には、それだけで様々な素材感があります。また、デッサンは何より手を使う、触覚にダイレクトに訴える練習方法です。素材感、質感、タッチ、触覚は、深い影響関係を持っていることは明らかで(優れた彫刻作品を鑑賞することで実感できます。)、それらを総合的に刺激する画材でもあります。鉛筆は、デジタル・クリエイションであってもお勧めしたいものなのです。

もし、鉛筆が上手く使えなくて落ち込んでいる方がいるのなら、気を取り直して、頑張っていただきたいものです。