デッサン力は、お金で買って手に入れることが出来るものとは、少し質が異なります。
デッサン力は、皆さんご自身の力を高めるものです。品物のように、人にあげたり貰ったりすることは出来ません。描けないものが描けるようになってきたら、デッサン力が付いてきたということになります。出来ないことを出来るようにするために、出来ないことを練習します。まずは、出来ないことが分かってくる段階があります。そして、出来ないことは、直ぐに出来るようにはならないことが多いです。

人は、人の顔を判別することが出来ますので、案外鋭い目を持っています。上手くなるということは、見る人にとって、とりあえず悪いところが見つからないレベルですが、これは案外ハイレベルです。上手くなることを求める方は多いと思いますが、それには時間を要します。どれくらい時間が掛かるかは、残念ながらやってみなければ分かりません。

少し経験を積んでデッサンのことが分かってくると、出来ないことは辛い、時間が掛かるのは辛い、そういう心理的ハードルが生まれてきます。このハードルは、私が教え続けてきた経験では、案外大きなものであると思いました。この心理的ハードルを乗り越える方法をまとめてみました。

長い目で見ましょう

時間の余裕を持つことです。それは気持ちの余裕にもつながります。
まだ知らないことが多いデッサンの世界、どういう結果になるかも未知数です。自分を追い込むようなことをしない。制限を設け、プレッシャーを増大させることはお勧めできません。

冷静に

感情的にならないことが大切です。
最初の内は、出来なくても当たり前です。プロでも出来ないことは、たくさんあるはずです。プライドに触る、恥に思うなどの、感情に振り回され過ぎないようにしましょう。

やる前から思い込み過ぎない

やってみると、思っていたのとは全く違うことは、たくさんあります。
初心者の方は、経験していないことばかり。経験する前と、経験した後のギャップがたくさんあります。やってみなければ分からないのに、やる前から色々期待してしまう、そして上手く行かなければ落ち込む。それも自然な心理だと思いますが、余分に疲れます。

またマニュアル本を多く読んで、知識をたくさん持っている人もいます。
その知識が役に立つ場合もありますが、素直な受け止めが出来なくて、学習が遅れる場合も多くあります。ご自身が、実際に手を使って描いてみるのと、頭で思い浮かべていたものとは違うからです。本で読んだ知識は一旦置いといて、目の前のモチーフ、自分の目や手の感覚に集中することが大切です。描いている時は、今、この場でのリアルより、大切なものは無いと思います。

新しいものは、ドキドキする世界

新しいものに触れる時は、はらはらドキドキします。
だから、期待を裏切ることも良くあります。良い意味で期待を裏切る場合もあれば、もちろん悪い意味で期待を裏切る場合もあります。上手く行くようになれば、失敗も無くなりますが、はらはらドキドキも無くなります。はらはらドキドキを楽しむぐらいの方が、積極的に取り組めると思います。

完璧主義は止めよう

「はず」とか「べき」という思いも、余計なプレッシャーとなって続けるハードルを高くしますので、お勧めできません。上手く描けるはずだ、これは自分に期待し盛り上げることでもありますが、上手く行かなければ自分に一層の負荷を掛けることになります。

例えば、減算方式。
始めから上手く行くことを前提にする減算方式では、直しが多いほど減点され、自分には才能が無いと思ったり、落ち込んだりすると思います。経験者ならまだしも、初心者が初めてのことを練習するのに、その考えを持ち込むのは現実的だとは思いません。

それよりも加算方式で、可能性を広げていきましょう。
一つづつ、今出来ることを積み重ねていく。欲張って、一遍に進もうとしない。上手く行くまで、気長に続け、いつかは上手くと思って、「気楽に」考えることをお勧めします。小さな可能性を積み上げていくことが出来れば、それは力強い前進になると思います。

練習にも「好き」を見出そう

好きであるという感情は、続けるために一番力強い応援団になってくれます。例えば、人は食べることが、好きですから、それがめんどくさくなることは、あまり無いと思います。
描くのが好きであるなら、描くことがめんどくさくはならないと思います。例え、面白くない地味な練習であっても、好きな部分見い出せるでしょう。そのように、好き=意味のある事というつながりが出来ると、描くことがもっと好きになっていくと思います。

自分の変化を楽しみに

新しいものを取り入れると、それが自分の体に沁みて、少しずつ感覚や考え方が変わっていきます。例えばデッサンでも、「見なさい、見なさい。」と耳にタコができるほど指摘され続けて、「見ているはずなんだけどな~」と思っていたのが、「見てなかった!気付いてなかった。」と思う体験談は、良く耳にします。そのような変化していく自分を楽しみに、練習して行っても良いのではないでしょうか?

良い部分が伸びることを期待することはもちろん、出来ない部分や良くない部分を「伸びしろ」と考えることも出来ます。実際、良い部分が伸びるスピードより、出来ない部分が改善する方が、成長スピードとしては大きいものです。時間が掛かるかもしれませんが、自分の成長を感じることが出来るなら、それは喜びになります。

インプットすることに専念しよう

インプットすることは大切です。絵というものには、自分の内面、自意識が投影されます。自分の持っているものが、絵の中身になっていくのです。絵というものは、自分の方から外へと表出するアウトプットです。

しかしアウトプットするものが豊かなものであるためには、インプットするものが豊かでないと、良いものにはなりません。上手くもなることもインプットすることなら、人を魅了する世界観も、インプットした世界観が参考になります。インプットし続けないと、自分の中身は枯渇してしまうぐらい、私はインプットすることは大切なことだと思っています。

自分を基準に、インプットVSアウトプットというように、今自分がしていることが整理することをお勧めします。デッサン=インプットと、絵(作品)=アウトプットが違うことが分かれば、デッサンが上手く行かない場合でも、こんなはずじゃないとか、自分には向いていないとか、思うことが少なくなると思います。インプットと割り切って、吸収することに専念出来るからです。

承認欲求は、長い目で

承認欲求ということは、他人ごとではないのですが、この頃思うところが多いため登場させました。
人に認められたい!そのような自意識や承認欲求が原動力になり、それが野心や目的になって奮起することは、悪いこととは思いません。また絵の世界は、作っている最中は自己完結しているようなところもあり、それだからこそ、人に見せたい、評価されたいと思うところもあると思います。

しかし昨今は、承認欲求が強いと感じる人の割合が、多くなってきた印象を持っています。インターネット常時接続時代、絵の上手な人が世界中からネット上に集まり、いいね!の数を競争するようになっていますから、早く簡単に上手くなって、早く多くの承認欲求を満たしたいと思う人が増えるのも頷けます。実際、私自身もインターネットに対する適度な距離を取ることに、頭を悩ませています。しかし、承認欲求の強さが、焦りを生み、手っ取り早い安易な方法を選ぶ原因になってしまうことは無いでしょうか?

デッサンオンデマンドを受講される方からも、時折そのようなところを感じることがあります。そのような方の中には、出来ていないところを指摘すると、過剰に反応し、コミュニケーションに神経を使うことがあります。そのような方は結局、出来ないところを指摘すること無く、課題を通過させるしかありませんでした。成果を焦って、上手く行かないと感情的になってしまったのかな?と思います。

しかし、どのような状況であったとしても、デッサンを早く簡単に上手くなりたいという要求には、応えられないと思われます。繰り返しになりますが、デッサン力を養うにはそれなりに時間が掛かります。また、承認欲求を満たすためにも、インプット→絵を描く=アウトプット→納得のいく絵を描く=成果を上げる→他の人の評価を受けるという行程がありますので、それなりに時間が必要です。これは、自分がコントロール出来無いものも多く、なるようにしかなりません。どうぞ、長い目で、辛抱強く、取り組んでいただけますようお願いいたします。

とはいえ、自分のことばかり考えてしまうと、人の話に耳を傾けるることは難しくなるものです。承認欲求ばかりを追うことは、自分の領域が小さく区切ってしまうことになります。私の経験では、区切られた自分を広げてくれるのは、人との出会いです。見事な生き方をしている実力者との出会いは、憧れと同時に、自分の至らなさも感じさせます。至らないというのを認めざるを得ないのは残念ですが、その人を見習いたい、いつかはその人のようになりたいと奮起することは、自分を大きな目標に向かわせてくれます。そのような長期目標を持てるなら、人生はもっと豊かなものになると、私はと思います。

では、皆様がデッサンの練習を続けられて、デッサン力を付け、ご自身の作品に活かせることが出来、クオリティ・オブ・ライフ(Quality of life)に少しでも貢献出来ますことを、心からお祈りしております。