こちらは、実際に受講されている生徒さんとの、デッサン添削のドキュメントです。
受講する時の参考にしていただけると、スムーズにやり取りが進みますので、ご活用ください。

1日目…モチーフの置き方を考える

モチーフには「普通の石」を選択しました。 生徒さんの近くの山で拾ってきた、路傍の石です。
大きな岩からポロッと落ちた、「生まれたばかりの石」という所に惹かれたそうです。 感受性が素晴らしいですね。


生徒さん
石は6センチくらいです。A5サイズのケント紙(横)で描こうと思っています。構図はこれでいいですか?

講師
それほど表情の無い石のようなので、石の角や凸凹がはっきりする角度、光の方向などを工夫してみましょう。

生徒さん
右の石の方がシャープなのでこっちにします。角度もこの面が一番面白そうです。効果的な演出をしたいです。
講師
良いとは思うのですが、効果的な演出ほどではありません。光の当たり方、石の角度を変えて、もう一工夫しませんか?焦らず色々とバリエーションを考えてみましょう。

2日目…モチーフのライティングを考える

生徒さん
光の当て方を考えてみました。この石がここに至るまでの長い旅を思うと、石の強さや存在感も感じてきました。

講師
いいですね。ただ描くだけでなく、成り立ちや手触り、様々に想像を膨らませる、これがクリエイティブの王道だと思います。
構図に関しては、私が指定する事は避けます。自分が一番気に入ったもので行きましょう。

色々と考えて、モチーフが決定しました。
ここでいきなりデッサンを開始せず、数枚クロッキーをして、モチーフを更に理解することをお勧めします。
クロッキーとは早描きの事です。10~20分くらいの短時間で、ササッと描いてみます。
(クロッキーを描かれたら、それも送って見せてください)

3日目…デッサン開始

生徒さん
写真左が書き始め10分、右が20分です。目安の十字線を入れて描いているのですが、デッサンでは避けるべきことでしょうか?

生徒さん
描き始めから1時間半経ったところです。HBで形を取った後に2Hで細かい線を入れてみました。

影が荒くて雰囲気が出ていないので、工夫したいです。薄く長い影を入れようと思っています。
凸凹で硬い石らしい感じを出したいです。

講師
石の面のザラザラが際立つ角度、そこに作者の意図を感じます。モチーフ特徴を上手く引き出しています。

十字線→あっても別に構いません。格子になると、個人的にはうるさく思います。目安ですが、囚われ過ぎない様に、余白の大きさを意識した方が良いでしょう。
影の荒い感じ→この段階では、擦り込むのも有効です。

石の細かい凹凸→一番凸凹の面、今のところ明るすぎます。大まかな明暗は、モチーフに合わせて付けていきましょう。

4日目…デッサン続き


生徒さん
プラス1時間半(トータル3時間)経過しました。

影を刷り込んだ上に細かく線を入れて荒い感じを無くすようにしました。
明暗の調子を全体に見直して、足りないところを入れ、もっと立体感が出るように進めました。
次はもっと細かい凹凸や筋を見ていこうと思います。
石はなかなか手ごわいと感じています。表情を感じるのが難しいです。これからもっと石が知る歴史、これからの行く末、海への長い旅を感じたいです。
描き終わったら石があった元の場所へ戻すつもりです。

講師
順調に進んでいます。
気になる点は一点、効果的な演出である、背景のグラデーションは、この段階で進めていく方が良いです。

絵はモチーフとの対話ですね。モチーフや自分のテーマから、受け取ったものを、表現して、人に伝える。それを呼吸するようにすることが出来れば理想ですが、私にとっても永遠のテーマです。

5日目…デッサン続き

生徒さん
プラス2時間(トータル5時間)経過しました。

背景にグラデーションを入れました。主にHBで濃淡を付け、ティッシュでこすってぼやかしてみました。石と背景が少しはしっくりした気がします。
薄い鉛筆で石の細かい凹凸も描き入れていきました。まだ凹凸や筋を描き切れておらず、完成にはなりませんでした。
この石の事を詳しく知りたく思い地質図で調べました。長い年月を考えると一層神秘的に見えてきました。

講師
順調に描き進んでいますね。では、気付いたことを書き添えます。

背景のグラデーション→もう少しグラデーションを濃くすると、劇的な印象が強まります。
石の細かい凹凸→鋭く消す、鋭く影を入れる。手で擦ると、手が擦り切れそうな凸凹の激しさ、あっても良いと思います。擦り込む癖に、注意しましょう。
石の、悠久の歴史を感じますね・・・。描くことで、更に興味が湧いてきたご様子、それにしても地質図でまで調べるなんて、素晴らしい!

6日目…デッサン続き

 

生徒さん
プラス2時間(トータル7時間)経過しました。

背景をさらに濃くしました。明るみに出てきた石、というイメージで、奥の方を暗くして光指す方が強調されるようにしてみました。
アドバイスにあった、擦り込み癖とはなんですか?つい擦り込んでぼやかしてしまうことでしょうか?
石の細かい凹凸、まだ少し滑らかすぎるかもしれません。もう少しガリガリした感じを出したいです。

講師
「擦り込み癖」とは、擦る表現を使い始めた時、色々なところを擦ってしまい、全体がツルツルヌルヌルとしていまうことです。この石のように、ザラザラしたハードな表情を描きたいときは、逆効果になることがあります。そうであっても、石の細かい凹凸を鋭く描き込むことで、仕上がると思いますので、最後は光と影が交錯した面を、頑張ってください。

7日目…デッサン完成


生徒さん
プラス4時間(トータル11時間)かかりました。これで完成したつもりです。直すべき所はありますか?

・気を付けたところ 凹凸をよく見て表しました。
・難しかったところ ざらざらした光沢が難しかったです。点々を打ったり薄い鉛筆を重ねました。
・工夫したところ 背景は、母岩から離れた小石が明るみに照らされたイメージを表したつもりです。長い影はこれまでとこの先の長い旅を表しています。
ちゃんと空間になっているか気になります。 小石となることは、このような穏やかな感じではなく、雷に打たれたような激しい変化かもしれないとも思うのですが、今回はこのように描きました。 石と対話するのは楽しかったです。

講師
石のデッサン、傑作です。気になるところはございません。やりきった感じが受け取れます。

生々しいというか、肉のような、生きているような気配さえあります。感情移入と言いますが、路傍の石に対して、このような細やかな愛情を注げたところ、特に素晴らしいと思います。長期間のレッスン、お疲れ様でした。


 

この石のデッサンはギャラリーに掲載されています。[詳しくはこちら]

デッサンは「単なる画力向上のトレーニング」では無く、モチーフへの考察・観察・感情移入などが、良いデッサンを描くためには必要です。また、講師への対話も含め、上手くいった点、上手く行かない点、目指していきたい点など、ご自身の思いを「人に伝えていく」丁寧さが、通信添削のデッサン講習には必要です。
是非、ご参考になさって、ご自身のデッサン講習を成功させてください。