そういう人はいます。私がそう思った人は、南方熊楠と宮本武蔵です。南方熊楠が、素晴らしく緻密なきのこや粘菌のデッサンを残していますし、宮本武蔵は簡潔でこれも素晴らしく筆勢の有る水墨画を残しています。彼らは絵描きではありません。研究者であり武人です。しかし、単に才能の差と言ってしまったのではくやしいので、もう少し掘り下げます。

研究者は、研究対象を見続け、ちょっとした違いをも見逃さない日常を続けています。武人は、相手の一挙手一投足が、自分自身の生死を分けるわけですから、相手の動作を見ることはそれこそ命懸けです。彼らの鍛えられた「観察力」を持ってしたら、絵を習わなくても絵が上手いのは、不思議ではないと思います。

やはり見ることが先になる、見る力が描く力になるという例として、良い示唆になるのではないでしょうか。描き方より、目を鍛えることの方が大切なことに、気が付いていただきたいと思います。