各位におかれましては、日々研鑽を積み、受験対策に励まれていることと存じます。
受験に対する心構えを、今一度ご確認いただきたく文章をしたためました。

皆さまは、初めて受験をし、これから美術分野に入って行かれる方々だと思いますので、美術や美術受験に対して、それほど多くのことをご存じではないと思っております。そして、ネットの情報を真偽不明であるにもかかわらず頼りにし、手探りで暗中模索をしていらっしゃる方も多いのではないかと思っております。そこで、皆様に、一般的な美術受験のリアルな状況をお伝えすることにしました。受験や美術と一口で言っても、実は大きく深い分野、私の経験から短い文章で説明することははなはだ恐縮ではありますが、あくまで一般論としてまとめました。

また、質問していただくことを推奨しておりますが、「何を質問して良いか分からない。」とお感じになることも正直あることでしょう。それに、メンタリティーの在りようが個人それぞれであることや、キャンセル・カルチャー、ハラスメントという言葉が横行する昨今、いかに受験というものが厳しいものであったとしても、講師が厳しく指導することは難しい状況です。もし信頼関係があれば、それも可能かもしれませんが、通信制の場合、信頼関係を築くことは簡単ではありません。
今回お伝えすることをご理解いただければ、ご自身で判断出来ることも多くなると存じますし、ご自身の自主的な行動に結び付き、合格に近付く一助となれば有難く存じます。どうぞ、よろしくご一読くださいますようお願い申し上げます。

受験について

●競争です。
●ハードルとして、試験を行い、合否を判定します。
※願書を出せば全員合格という学校が、無いわけではありません。
●レベルの高い学校ほど、試験内容は難しくなります。
●そのような学校を受験する人は、早くから準備をし、時間を費やして経験を積みます。
●専門的教育を受けた人が教える受験予備校で、準備を行う人がほとんどです。
●受験予備校にもレベルがあります。優秀な生徒を集めて、合格率を上げたいため、入会を断るような塾もあります。予備校内でも競争し、レベルアップを図っていきます。名門大学には名門予備校という組み合わせは、ここから生まれます。
●良い学校には、みんなが行きたい。しかし定員があり、みんなを受け入れられない、だから受験が生まれます。良い学校に行くためには、チャレンジするしかありません。

試験について

●一人で描きます。白い紙を渡されて、最初から最後まで、自分だけで行います。
●描くテーマを与えられます。多くの場合はモチーフを描きます。
●どんなテーマ、モチーフが与えられるかは、試験の時にならないと分かりません。
どんなテーマ、モチーフが出ても、それに対応出来る画力が必要です。
●テーマ、モチーフに関しては、少しレベル高め、受験生が全力を出しても描き切れないものが、出題されることが多いように思います。ネットに出ている参考作例は、優秀者レベルと考えられます。しかし、出題されたことに対して、全力で取り組み、少しでも良い解答を提出する必要があります。そのような大学側の思慮が感じられます。
●モチーフはセットされている場合や、モチーフを渡されて、自分で自由にセットする場合があります。
モチーフ+言葉から連想されるイメージを構成するもの、自由にモチーフを組みなさいとか、自由に想像して描きなさいとか、描き手=受験生に考えさせる出題が多くあります。レベルの高い学校ほど、受験生を自由にさせ、その人の内面や素養、個人力を判断する傾向があります。
※東京芸大は、個人のポートフォーリオ提出、自由課題提出などを行っています。
※学校によっては、同じような系統のモチーフが出題される傾向はあります。しかし、そこに安心していると、学校によっては、時々試験内容をガラリと変えることがありますので、ご注意ください。
●自分の都合は、ほぼ聞いてもらえません。相手合わせです。
●試験日までに、一人で闘えるようになりましょう。

美術について

●自由で個人主義的です。
●自分を起点にして、生み出す文化です。
●個人がどのように見るか、どのように考えるかを表現する文化です。
このような点に、可能性や憧れを持つ方が多いのではないかと思います。
●創造性、想像力が大切な資質です。
●そのような理由で、美術の学習方法は、個人力を高めていくものです。それには、自分で考えていく力、自分の見方、考え方を持てること、そしてその見方、考え方を練り上げることが問われます。だから、美術の受験でも、自分で考えて、自分で描くことは重視されます。
●他教科にあるような、知識優先、暗記中心の、やり方を知ってその通りにすれば出来るようになるものとは、本質的に違います。普段から、自分で見て、考えて、描くことを行っていかなければ、試験には通用しません。
●自由であれば何でもありか?というと、そうではありません。組み立て、理由、根拠、技術などが、厳しく問われるところがあります。
●その一つに、デッサン力があります。デッサン力を付けるには、そのための技術、知識が必要です。

美術の勉強方法について

●自分に向き合うことが必要です。自分で全部行うからです。そのための個人力が問われますので、それを自覚するために、自分を客観視することが必要になります。
●感性や気付きなど、個人力を構成するものは自分で考える力です。
これまで、受験生を見て来ましたが、自分に問題意識を持てた時が飛躍的に伸びた時でした。問題意識とは、自分のこういう部分を改善すれば受かるかも知れない、という具体的な自覚です。
●現実に向き合うことになります。自分の受ける学校は、どのようなレベルであり、どのような試験が出題されたか、まずは受け入れ先のルールを受け入れる必要があります。趣味で絵を描くのであれば、自分の好きなことだけすることが出来ますが、受験では徹底的に相手合わせになります。
●客観性と理性的判断が重要になります。ここでは、自分の都合や思い込みから離れなければなりません。
●模試などを行い、自分の実力を計ることは、とても有効です。
●自分が上手くなるために、何が必要かを考えます。客観的な視点から、足りている実力と足りていない実力などの自己分析を行い、傾向と対策を講じます。
●時間が掛かります。なかなか上手くなりません。
画力は、鉛筆が上手く使えることから始まり、見る力と共に付いてくるものです。見る力とは、観察力に代表される意識の持ち方です。更に、想像力、組み合わせ方、描き進め方などの様々な力や考え方が、試験に問われる場合があります。これらは、経験を積みながら、少しずつ総合的な成果となって表れてきます。→100枚ぐらいは描く必要がある、と説く人もいます。
●技術の習得は、段階的に進むしかありません。最初は、簡単なものを描き、段階を追って難しくしていくように、少しずつレベルアップしていく必要があります。技術の習得は、一足飛びに出来るものではありません。
●上手く行かないことに、慣れる必要があります。上手く行かない度にプライドが傷付くようでは、受験どころではありません。最初から上手く描けることは有りませんので、描けないことには向き合うしかありませんし、描けるまで頑張るしかありません。チャレンジ精神を奮い起こして、受験に向き合って下さい。
●絵だけではなく、学力も問われる傾向があります。美術系受験では、主な試験となるものがデッサン審査であるとしても、昨今の受験では、学力も問われ、総合的な判定をされる場合が多いようです。デッサンの練習と共に、勉強する時間も必要なので、一般の受験より楽ではありません。

通信性のメリット、デメリット

●通信制は、その人の自主性、その人のペースに任せ、学習を行います。
メリットとしては、時間を有効に使い効率的に学習できます。ご自身でモティベーションを維持出来れば、受験まで、きめ細やかな傾向と対策を講じることが可能になります。そして、自分の力で受験を勝ち抜いたことは、それ以降の人生の大きな自信につながることだと思います。
●デメリットとしては、モティベーションが保てず、学習が進まないことです。今まで学校で勉強してこられたのでお分かりとは思いますが、自主的に勉強することは簡単なことではありません。通信制はマイペースで出来るかわりに、モティベーションが保ちにくいところがあります。予備校の場合、その場所に行くだけで気持ちを切り替えて、学習する気持ちにさせてもらえますが、通信の場合は、そのような気持ちの切り替えは、ご自分で行うしかありません。スケジューリングを行ったとしても、必要な段階を飛ばして、間に合わせるようなことになれば、また、井の中の蛙というように、自分だけの判断に陥り、試験の時になって目が覚めるようでは、合格は難しいと思います。
●受け身では上手くなりません。先に書いた通り、美術は自分で考え表現する力が問われます。通信制では、やはりコミュニケーションが対面より薄いですから、ついつい楽な方に流されて、受け身になることも多いと思います。
●マニュアル主義とも合いません。
先に書いた通り、美術は自由で、それぞれの感じ方、創意工夫が重要視されます。世間では、マニュアル通りに練習する方法が多くなってきましたが、それだけでは自分で問題をアレンジするような試験には対応できません。マニュアルに慣れ、自分で感じない、自分で考えないことに慣れてしまうと、美術自体の考え方とも合わなくなります。
●通信制は、積極的にコミュニケーションを取っていただくことで、上達は早まります。文章が多ければその人の見方や考え方がわかり、アドバイスも明確になります。自分の気付きも明確になり、同じことを繰り返さないで、習熟が進むなど好循環を生みます。レベルの高い大学合格者ほど、たくさん文章を書く傾向がありました。
しかし、文章が少なくても通信講座は成り立ち、習熟に穴があっても、習熟が遅れても、期間を終了することも出来るのが、通信制の落とし穴です。このように、自主性、ご本人次第の努力で、成果が大きく変わってくるものが通信制だと思います。

国語の授業ではありませんので、文章力は問いません。ご自身の気持を正直にお伝えいただき、積極的にコミュニケーションを取っていただけますようお願いいたします。

美大予備校はどんなところか?

●志を共にする仲間がいます。
●先生も常に目の前にいます。
●美大受験について、仲間や先生と情報交換出来ます。
●上手い人もいます。
●ライバルが出来るかも知れない。
●予備校に行く限りは、練習しないわけには行かない、緊張感のある雰囲気があります。
●美大を目指すのは簡単ではないこと、デッサンが上手くなるのは簡単ではないことが、自然に納得できる環境があります。

皆さんに、美大予備校に行くことを勧めているわけではありません。皆さんは、一人で、自宅で勉強することが多いと思いますが、予備校に行った人たちと試験会場で競争することになる現実は、知っておいて損はないと思います。モティベーションを上げ、自信をもって試験会場に臨むために、機会があれば、予備校に見学に行ってみて下さい。

今までの受験生の様子=ドキュメント

●簡単に「プロになりたい。」という人ほど、簡単に辞めました。
●自分に向き合うことが出来ない人は、受験するまで頑張れませんでした。
●初心者ほど、プライドが高い人が多いように思います。経験を積まないと、客観的な視点を持てないからです。
●上手い人ほど、冷静で、客観的で、自分に厳しい傾向があります。
●合格者は、細かく自己判断をし、日々研鑽する努力を惜しみませんでした。
●模試をし、自己採点を行ってから、自分の課題について真剣に考えるようになった人は、練習する姿勢や文章がまったく変わりました。そして、見事に合格を勝ち取りました。

最後に

受験は、ハードルです。
そのハードルまで実力を上げなければならない、自分との闘いです。
受験は、大きな世界へと飛び込む、最初の機会です。
それまでの自分を超えるために、自分と向き合い、自分を客観的に見ることになります。
出来ないことが、出来るようになった時に、本当の自信になるのだと思います。
自分の能力を高めることに、チャレンジして下さい。自信を付けて、試験会場に臨んでください。
これらのことが皆さまのご参考になり、合格を勝ち取るための一助となりましたら、これに勝る喜びはありません。