マンガ・アニメは、線画です。幼い頃から慣れ親しんだ、この描法が特別なものだと感じる人は少ないでしょう。デッサンは、線画ではありません。デッサンでも、線を描くことはありますが、モチーフにある光や影、色を描いている内に、線は消えていきます。現実の世界には、線というものはないのです。線というものは表現、それだけを意図的に取り出したものだということです。私たち日本人は、それほど特別には思わないで身近に感じていますが、日本の伝統では、線が普通に表現されているからかもしれません。
線は、子供のころから慣れ親しんでいるもので簡単そうに思えますが、良い線を吟味して引こうとすると、案外難しいものです。形を捉えるだけでなく、生き生きとした感じや立体的な奥行きを線に込めるのは、大変です。ピカソのドローイングを見て、子供の絵のようで、自分でも描けそうだと思う人もいるかも知れません。とんでもない!ちょっとやそっとで、あの線は真似が出来ません。
線は、シンプルな表現です。シンプルなものは、それだけ難しいところがあります。線だけで練習を繰り返すより、デッサンで一通り、形、明暗、立体感などを勉強する方が早道かも知れませんね。ちなみに、過去の日本の絵描きさんは、運筆3年と言って、描き方を徹底的に繰り返したそうですが、その練習量はとてつもないものだと思います。(北斎漫画は、それを簡単に描けるように手ほどきしたものですが、マンガの元になったと言われています。)それに比べれば、デッサンの方が簡単です。
私の身近にもマンガを描く人がいますが、デッサンを始めた当初、どうしても立体的に捉えることが出来ないで苦労していました。例えば、人物デッサンを描くと、シルエット=外形で捕らえる癖がついていました。線に、奥行きや丸みを表すために必要だったのは、技術ではなく「立体視」でした。「立体視」とは、脳内で立体を思い描く力です。マンガのデッサンで、人体を描くためのステップアップとは、基本的な立体から始めて、人物クロッキーを繰り返し描いて、人体の構造も覚えて、色々なポーズをイメージして描くというように進めます。その後、身近にマンガを描く人は、どんどん良い線が引けるようになりました。
それにしても、マンガを描ける人は、すごい才能をお持ちだと思っています。絵が上手いだけではなく、ストーリー、キャラクター制作など、色々なことが出来なければならない。(私は、手塚治虫さんをとても尊敬しています。)マンガ家を目指す方は大変でしょうけれども、デッサンは絵が上手くなることに役立つと思いますので、どうぞご検討ください。