「線とは何か?」を考え直すこと、これがデッサンの始まりと言えます。
マンガや絵で、子どもの頃から慣れ親しんでいる「線」ですが、実は現実世界には「線」というものは存在しません。現実には、物の境目=アウトラインがあるだけなのですが、それを「線で表現している」ということになるのです。デッサンでは、初めは線で描いても、描き進めるうちに線が消えて無くなります。デッサンに少し慣れてきた時、そのことを実感すると思います。
線の描き方として一般的な方法は、線で形を囲んで、その中を塗るというものです。マンガを描いている人の多くがそうです。しかしデッサンは、「骨→肉→服など」と構造を意識しながら描き進めます。見えたものだけではなく、構造も認識して「線」にします。
この捉え方の大転換、パラダイムシフトは、多くの人が苦労する点です。身近でマンガを描いている人も、典型的に、長年のマンガの描き方がばっちり脳に刻み込まれていて、とても苦労していました。小中高と続けてきた図工や美術の授業で、当たり前に描いてきた線とは、一旦切り離してお考えになる方がよろしいと思います。
これまでは、線の捉え方についてでしたが、線は対象を表すもの、対象を捉える意識について少し。少年時代の手塚治虫や南方熊楠は、習いもしないのに、驚くべき細密描写を描いています。「面白いものを見つけた!」「描きたい!」「なるほど、そうなっているのか!」という驚きと興奮が、自然にご本人の観察につながり思考となって、絵に定着したと推測します。最終的に描ける描けないは、線や構造についての知識ではなく、観察力や意識の問題です。