実は、かなり苦労して出来ています。

漫画アニメに出てくるプロポーションと、実際の人体とはかなりの違いがあります。
漫画アニメのプロポーションをそのまま取り入れるとフィギュアのようになり、リアルな人体らしさは感じられなくなります。どこまで漫画アニメのプロポーションを取り入れるか?部分的に比率を変えることを考えました。また石膏像というものは、一般的に大きい。卓上に置いて、気軽に描ける大きさ、小さすぎず大きすぎずという結論に達しました。

細かいところの細工は、簡単では有りませんでした。頭部の、特に二重瞼とか耳とか。原形では、ルーペとスプレーを多用しました。

胴体については、ひねったり動きを出すと、左右対称が崩れたポーズになりがちです。それだと描くのが大変だし、練習に適した一般的ポーズから離れてしまう。左右対称ポーズということになりましたが、ただ立っているだけでは退屈です。どう動きを出すかが問題でした。前後の動きを少しだし、胸を張って、お尻を突き出すポーズを採用しました。「気を付け!」という雰囲気です。

ヌード写真や解剖図を参考にして、肉付けを行いました。基本的に脂肪の少ない箇所は、リアルな凹凸を取り入れることになりました。
しかし筋肉の付き方を忠実に再現すると柔らかさが失われる、余り美しくないと思いました。腰から足というように繋がりを追って、リアルな凹凸→表面積を減らす削り方や磨き方をしました。

下地が出る、塗り重ね失敗、融着など、原形が破損する事故も多々ありました。塗って磨く作業は、その分増えたわけです。形が甘くなる部分を磨きだすのには苦労しましたが、指先がカーブを覚えた、指の間隔に従った、そういう感覚がありました。幸いにして、適度に脂肪が乗り、しかし重力に逆らった張りを持つ、肌が出ました。

次にシリコン型も、相当手間がかかりました。原形もデリケート、シリコン素材が更にデリケート。型の設計方針は、石膏鋳込みが失敗する度に作り直しとなり、直立→斜め置き→横置き蓋付きと変わっていきました。抜け勾配で2回ほどやり直し、更に気に入らない部分が出てくると原形事態を直し、そうなると型も変え、といった具合にコスパの悪いやり方をしています。型が一体化するという初歩的なミスから始まって、切ったり、貼ったり、埋めたり、取り直ししたり、直し、直し、直しの連続!思い出すと、うんざりします。

最大の難関は石膏、最後まで苦しんだのは気泡でした。この石膏像の場合小さいので回し掛けが難しい、鋳込みという方法になります。
石膏というものは、粉から始まるので必ず空気を含みます。重力に従って気泡は上がる、上面に気泡が溜まって、ツルツルの肌が壊れてしまうのです。

どうしたらその気泡を抜くことが出来るのか?色々実験しました。でも最終的に抜くことは出来ませんでした。どこもが下の面になる?それは回転させることだという発想の転換がなければ、これは成功しませんでした。完全に工学的発想、技術の世界ではまったく初歩的なことなのでしょうが、素人が違う分野に手を出すと苦労します。真空圧力鋳込みなんていう、工業力と資本力はありませんし、途方に暮れるという気分をリアルに味わいました。

今回は、自分の視点から表現する作品ではなく、お客様がこういうものがあったらいいなという視点から製品を作るプロダクトでした。世の中の職人さんたちが、それぞれに苦労して「ものつくり」に汗水垂らしていると思うと、勇気付けられます。

      ※失敗ピースは、32個